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2011/12/25 第10回演奏会は終了しました。1,300名を超えるご来場、ありがとうございました。次回の演奏会は未定です。決まりしだい、お知らせいたします。

「音楽はライヴが面白い ♯1」

シーズンを重ねるごとに評価を高める大植英次/大阪フィルのコンビが、5シーズン目を迎えた早々、大変な名演をやってのけた。 伝統を誇る大阪国際音楽祭に、このコンビはブルックナーの8番のみという大胆なプログラムで乗り込んできた(4月26日・フェスティヴァルホール)。 ブルックナー8番といえば大フィルの十八番中の十八番だが、それだけに大阪の聴衆は鋭い耳を向ける。 また、常任就任2シーズン目に大植が取り上げ録音もされた曲だけに、その後の深化を誰もが見極めようとしている。 いわば、大植/大フィルの現在を測る試金石ともいえる演奏会だ。

果たして、この重要な演奏会で彼らは堂々たるブルックナーを演奏した。 とりわけ3年前の同じ曲の演奏を覚えている者には強い驚きを与えたに違いない。 3年前の演奏は、引き締まった筋肉質の響きと動的なテンポによる若々しいブルックナーだった。 それに対してこの日の演奏は、聴くものを包み込むような豊かな響きと、ゆったりと呼吸をするような遅いテンポによるスケールの大きな演奏であった。 とりわけ印象的だったのは、ブルックナーに頻出する総休止をいずれも非常に長く取っていたこと。 総休止で次の音を待っている間の幸福感、そして次の音が立ち上がる瞬間の響きの美しさはまさにブルックナーを聴く醍醐味である。 仮にこの演奏を録音して聴いたならば、総休止が異様に長い奇異な演奏に聞こえるのではないだろうか。 この日の演奏はライヴでしかその感動を味わえない演奏といえよう。

大フィルの創設者・朝比奈隆もまた、ライヴで聴く醍醐味を持った演奏家であった。 朝比奈はレパートリーが狭かったが、同じ曲を何度演奏してもそのたびに異なるアプローチで演奏していたため、我々ファンは演奏会場に通いつめた。 何度聴いても演奏会場で新鮮な感動が得られるからだ。 ライヴで聴く醍醐味を持った演奏家、という点で、大植は朝比奈の後継者にふさわしい。

この日の演奏の凄さは、曲が終わっても数秒間拍手が起きなかったことに端的に表れている。 この曲の堂々たるコーダは、初めて聴く人でもそこが終わりだと明確にわかるものであり、曲が終わると同時に拍手が起きることがほとんどである。 しかもここは「イラチ(関西弁でせっかちな人の意)」が多い大阪である。 そんなイラチな大阪の聴衆をも押し黙らせるほどの力が今日の演奏にはあったのである。 実はこの日、演奏が始まった瞬間、客席で電子音が鳴り、大植が演奏を一旦やめて初めから振り直す、という事故が起きていた。 このように、聴衆は必ずしも行儀の良い人ばかりだったわけではない。にもかかわらず、80分後には会場にいた全員が、性急な拍手をしない上質な聴衆に様変わりしていたのだ。 演奏会が聴衆を育て、育った聴衆が演奏会を支える、という理想的な循環ができようとしている。

遠藤 啓輔
1973年、愛知県生まれ。 現在、奈良市在住。 オストメール・フィルハーモニカー管弦楽団、京都フィロムジカ管弦楽団トランペット奏者として活動する一方で、全国のコンサート会場に聴衆として出没する。 熱愛する作曲家はブルックナーとシベリウス。 自慢は、ブルックナー、シベリウス、マーラー、ショスタコーヴィチのすべての交響曲をライヴで聴いたこと。他の作曲家については言わずもがな。